睡眠の質とは何か? 睡眠チェックシート&改善方法

睡眠不足に悩む方は、「睡眠の質を上げましょう」と言われることがあります。しかし、「睡眠の質」という言葉は漠然としたイメージが強く、その意味をイマイチ分かっていない方も多いでしょう。今回は睡眠の質の意味をはじめ、睡眠の質を高めるためにできることをご紹介します。

この記事の監修者

田村利之
烏山たむらメンタルクリニック院長

東京医科大学を卒業後、大学病院精神科にて経験を積み、烏山たむらメンタルクリニック開院。現在は医療法人南陽会理事長に就任し、クリニック・病院にて日々臨床業務に携わっている。本記事の医師監修に関して、学術部分のみの監修となり、医師が商品を推奨しているわけではございません。

そもそも「睡眠の質」とは何か

「睡眠の質」と聞くと、睡眠の中身や深さといったイメージを持つ方が多いでしょう。明確に定義されている言葉ではないので、人それぞれでイメージが異なるのは仕方がありません。

睡眠の質は、大きく3つの要素から構成されていると考えられます。

「睡眠の質」を構成する要素

  1. 寝つきの良さ
  2. 眠りの深さ
  3. スッキリとした目覚め

一般的に、これら3つが満たされている睡眠を「質の高い睡眠」と呼びます。

レム睡眠とノンレム睡眠

睡眠の質を議論する上でよく出てくる言葉が「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」

レム睡眠・ノンレム睡眠

レム睡眠
 脳が活発に動いていて、脳内の記憶を整理している状態
ノンレム睡眠
 大脳が休息して、脳や体が疲労回復している状態

レム睡眠とノンレム睡眠は、約90分〜120分の周期で入れ替わり、一晩で3~5回繰り返します。

朝になるにつれてレム睡眠の時間が長くなり、自然と目が覚めるわけです。しかし、レム睡眠とノンレム睡眠の周期には個人差があり、レム睡眠が長く続くと脳や体の休息時間は短くなるので、睡眠の質は低下します。「ちゃんと寝ているのに、身体が休まらない」という方はレム睡眠の時間が長い可能性があります。また、ノンレム睡眠も眠りの深さによって、4段階(もしくは3段階)に分類され、睡眠の前半ほど深い眠りとなります。

ノンレム睡眠の持続時間=眠りの深さは日中の活動時間や活動量に比例します。

睡眠の質が悪くなる要因

厚生労働省が実施した国民調査によると、日本人の約2割以上は「睡眠で休養が十分にとれていない」と回答しています。
※参考:厚生労働省「平成28年「国民健康・栄養調査 」の結果」

睡眠をしても休養が十分でない=睡眠の質が悪いということですが、その原因は大きく2つあります。

要因① 生活習慣の乱れ

生活習慣の乱れはホルモンバランスの乱れにつながり、その結果、睡眠の質は低下します。睡眠には以下のホルモンが大きく関わっています。

ホルモンの種類

睡眠との関わり

メラトニン

起床後14時間〜16時間後にメラトニンの分泌がピークになることで、眠気がくる。

コルチゾール

コルチゾールが分泌されることで、頭が冴えて活動できる

成長ホルモン

睡眠中に多く分泌され、日中の心身の疲れの回復、ストレスの解消、新陳代謝を助ける働きがある。

睡眠と覚醒はメラトニンとコルチゾールという2つのホルモンバランスでコントロールされて、睡眠中の身体の回復は成長ホルモンの分泌量が大きく影響しています。成長ホルモンは一定のサイクルで生活することで盛んに分泌されるため、体内時計が乱れてしまうと、睡眠中に十分に休養を取ることができないのです。

 要因② ストレス

ストレスを抱えていたり、あれこれ考え込んでしまってはなかなか眠れないものです。人間は夜になると副交感神経が優位になり眠りにつくことができますが、ストレスがあると自律神経が乱れ、入眠時に交感神経が働くため、眠れなります。

ストレスを簡単に解消することはできませんが、そのストレスは前述した生活習慣の乱れによっても引き起こされるので、まずは生活習慣を整えることを心掛けましょう。どうしても眠れないときは、軽めのストレッチをするのもおすすめです。筋肉を緩めることで、副交感神経が優位になります。

 睡眠の質は睡眠時間では決まらない

日本人の平均睡眠時間は7時間22分と諸外国と比較しても少ないことで知られています。

※OECD「Gender Data Portal 2021

理想の睡眠時間は子どもであれば、8〜11時間、成人でも7〜9時間と言われていますが、適正な睡眠時間は人によって異なります。というのも、睡眠時間は「必要睡眠時間」と「適正睡眠時間」の2つで構成されているという考え方があり、前者の必要睡眠時間は体質や遺伝的要素が大きいと言われています。

睡眠時間の構成

必要睡眠時間
 生きていく上で最低限必要な睡眠時間
適正睡眠時間
 基礎代謝以外の活動で生じた疲労を回復するために必要な睡眠時間

冒頭でも解説したように、質の良い睡眠とはスムーズに寝つけて、深い眠りに入り、朝はスッキリと目覚められるような睡眠です。この3つを満たすことができる、自分自身の適正な睡眠時間を知ることが大事です。

睡眠時間について詳しくは「【年齢別】ベストな睡眠時間とは? 長すぎても短すぎてもダメな理由 」で解説しています。

睡眠の質チェックシート

睡眠の質の良いor悪いを判断するのは難しいですが、以下に睡眠状態チェックシートをご用意しましたので、当てはまるものにチェックしてください。

ひとつも当てはまらないのであれば、あなたの睡眠の質は良いと考えられます。逆に当てはまるようなら改善が必要です。

なお、国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター (NCNP)では「睡眠に関するセルフチェック 」を公開しています。自分の睡眠をチェックしたい方は、こちらもぜひご活用ください。

 睡眠の質を上げるためにできること

睡眠の質を上げるために、まずやるべきは生活習慣を整えることです。ここでは、具体的にその方法について解説します。

毎朝同じ時間に起床して、朝食を摂る

生活習慣を整えるため最も大事なのが毎日同じ時間に起きること。そして、朝に日光を浴びることで体内時計はリセットされます。

また、朝食は日中に活動するためのエネルギーとなるだけでなく、体を目覚めさせる効果もあるので欠かさず摂るようにしましょう。

運動をする

運動習慣がある人は不眠に陥りにくいと言われます。これは、運動によって得られる適度な疲労感と、運動によって脳の温度が一時的に上がり、その後、通常時より下がることが眠気を誘うからです。

ただし、就寝直前の運動は体が興奮してしまって逆効果になるので、遅くとも就寝前3時間前には運動を終わらせておきましょう。

入浴する

入浴にはリラックス効果があるだけでなく、運動と同じで、脳の温度を上げる効果があるので、脳の温度が下がったタイミングで眠気が訪れます。

ただし、運動と同じで睡眠直前の入浴は逆効果なので控えましょう。

睡眠環境を整える

寝室の温度が暑すぎたり、寒すぎたりしては体温調節がうまくできず、寝つきが悪くなります。快適に眠れる室温は16度〜26度とされているので、とくに夏場や冬場は念入りに室温を調整しましょう。

寝具選びも慎重に

また、枕、布団などの寝具も体に合ったものを使うようにしましょう。

寝具選びのポイント


 首や肩への負担が少なく、適度な硬さのもの
敷布団
 体が沈み込み過ぎない程度の硬さのもの
掛け布団
 身体にフィットしやすく軽いもの

寝具は専門店で計測、体験して購入するのがおすすめです。なお、スマホやテレビの光は入眠の妨げになるので、寝室には置かないのがベスト。どうしても置きたい場合は「就寝2時間前は使わない」などのルールを作りましょう。

睡眠に好影響を与える栄養素をとる

軽視されがちですが、睡眠と食事には深い関連性があります。

以下の栄養素は睡眠に好影響を与える栄養素として知られています。

栄養素

働き

豊富な食べ物

トリプトファン

睡眠を促す「メラトニン」の原料となる

乳製品、肉、まぐろ、かつお、卵など

GABA

興奮した神経を落ち着かる、ストレスを緩和する

発酵食品、キノコ、トマトなど

グリシン

深部体温(体の中心部の温度)を低下させる

ホタテ、するめ、鶏もも肉など

テアニン

心身をリラックスさせる

緑茶、紅茶など

また、ビタミンB6にはトリプトファンの吸収をよくする働きがあります。これらの栄養素が多く含まれた食材を日々の食事に意識的に取り入れましょう。

睡眠の質を高めるためのおすすめメニュー3選

ホットきな粉牛乳

材料(1人分)
・きな粉・・・大さじ2杯
・砂糖・・・小さじ1杯
・牛乳・・・250ml

作り方
1. 牛乳をレンジで温める
2. きな粉と砂糖を入れて、よく混ぜる

乳製品、大豆製品はトリプトファンが豊富。きな粉と牛乳を合わせるだけなので、忙しい朝におすすめです。

若鶏の味噌漬け焼き

材料(1人分)
・鶏もも肉・・・120g
・リーフレタス・・・3枚
・サラダ油・・・少々
◎調味料
・味噌・・・小さじ2杯
・しょうゆ・・・小さじ1杯
・みりん・・・小さじ1杯
・日本酒・・・小さじ1杯
・にんにく・・・小さじ1杯
・生姜・・・小さじ1杯

作り方
1. 鶏もも肉をフォークで数カ所刺して穴をあけ、食べやすい大きさにカット
2. ビニール袋に調味料を全て入れて、混ぜ合わせる
3. 2にカットした鶏もも肉を入れて、軽く揉んで冷蔵庫で半日寝かせる
4. サラダ油を敷いたフライパンに3を入れて、強火で焼く
5. 鶏もも肉の片面が焼けたタイミングで裏返して、水を50cc入れて蓋をする
6. 水分がなくなるまで焼き上げる
7. お皿に焼き上げた鶏もも肉とリーフレタスを盛り付けて完成

トリプトファンが豊富な味噌とグリシンが豊富な鶏もも肉を使った料理。味噌は汎用性が高いので、鶏肉だけでなく、様々な食材と合わせてオリジナルの料理を考えましょう。

ホタテとトマトの冷製パスタ

材料(1人分)
・パスタ・・・100g
・ホタテ(刺身用)・・・3個
・トマト・・・1個
・オリーブオイル・・・大さじ2杯
・めんつゆ・・・大さじ1杯
・塩・・・適量
・パセリ(カット)・・・適量

作り方
1. パスタを時間通りに茹でる
2. ホタテとトマトを2cm角にカットしてボウルに入れる
3. 2にオリーブオイル、めんつゆ、塩を入れて混ぜる
4. 茹で上がったパスタをザルにとって、冷水で洗う
5. パスタの水気を取って、ボウルに入れてよく混ぜる
6. 器に盛り付け、パセリをかければ完成

グリシンが豊富なホタテとGABAが豊富なトマトを使った料理。GABAはキムチや納豆にも多く含まれるので、副菜として納豆キムチを添えるのもいいでしょう。

睡眠の質を下げるNG行動

最後に、睡眠の質を下げるNG行動をご紹介します。

就寝直前の食事

就寝時には消化が終わっているのが理想。食べてすぐ寝ると、身体は消化にパワーを使うので内臓の休息時間が短くなり、眠りが浅くなります。

胃に入った食べ物は消化されるまでに約3時間かかるので、寝る3時間前には食事を終えるようにしましょう。

就寝直前のタバコ

タバコに含まれるニコチンは脳を覚醒させる作用があるため、就寝前の喫煙は睡眠の質を低下させます。喫煙者の方は、遅くとも就寝1時間前までには喫煙を済ませましょう。

就寝前のお酒

「寝酒」という言葉があるように、アルコールは一時的に寝つきを良くする作用がありますが、アルコールは代謝されると「アセトアルデヒド」という物質が発生します。アセトアルデヒドには覚醒作用があるため、眠りが浅くなってしまいます。

お酒は適量を心掛け、食事と同様に就寝3時間前には終わらせておきましょう。

18時以降のカフェイン摂取

カフェインには覚醒作用があるため、コーヒーや緑茶などは就寝前に飲まないようにしましょう。カフェインの効き目は個人差がありますが、敏感な方は就寝する5~6時間前から控えるのがベターです。