アルコールが中性脂肪になるメカニズムを解説「検査前日の飲酒は大丈夫?」

健康診断で「中性脂肪に気をつけましょう」と言われた方のなかには、お酒を毎日飲んでいる方もいるでしょう。そのお酒が中性脂肪の数値に影響している方も少なくないはずです。

そうはいっても、毎日飲んでいるお酒をやめるのは容易ではありません。

この記事では、アルコールが中性脂肪になるメカニズムをはじめ、お酒好きの方が中性脂肪を減らす方法まで解説します。

中性脂肪とアルコールの関係性について解説します。

健康診断・血液検査前日のアルコールはどれくらい中性脂肪の数値に影響するのか? 

お酒は好きだけど中性脂肪を減らしたい方はぜひご覧ください。

この記事の監修者

 

藤堂 紗織

Alohaさおり自由が丘クリニック開業医

日本医科大学医学部卒業。日本医科大学武蔵小杉病院で研修後、腎臓内科学教室に入局。

その後、善仁会丸子クリニックにて10年院長勤務。現在は、Alohaさおり自由が丘クリニックを開業。内科、皮膚科、美容皮膚科を標榜している

アルコールが中性脂肪になるメカニズム

アルコールが中性脂肪になるメカニズムを解説する前に、アルコール摂取がどのように体内に作用するのかをみていきましょう。

このように、アルコール摂取から余ったエネルギーは中性脂肪になり、それが肥満や脂肪肝、最悪の場合、動脈硬化になります。

まずは、中性脂肪についておさらいしましょう。

中性脂肪とは

中性脂肪とは、名前のとおり脂肪の一種です。

英語名で「トリグリセライド」「トリグリセリド」と呼ばれることもあります。

中性脂肪そのものは「体内にエネルギーを貯蔵する」という大切な役割があります。

生命を維持するためのエネルギーは主にブドウ糖が利用されますが、ブドウ糖が不足したときにそれを補うために利用されます。

前述したように、過剰に摂取した中性脂肪は肝臓や脂肪組織、皮下、血中に蓄えられます。 肝臓でたまると脂肪肝、皮下組織でたまると肥満、血液中で続くと動脈硬化を招きます。

そして、血液中の中性脂肪が増える原因は大きく2つ分けられます。

〇外因性

食事中の脂肪が腸で吸収されて血液中に放出される

〇内因性

一度肝臓に取り込まれて蓄えられた脂肪が再び血液中に放出される

このうち、アルコール摂取は主に内因性に大きく関わります。※後述します

続いて、アルコール(お酒)についてもおさらいしておきましょう。

アルコールとは

お酒に含まれているアルコールは、慣用名で「エチルアルコール」、国際化学命名法で「エタノール」と呼ばれています。

お酒は作り方で分類すると以下の3種類となります。

〇醸造酒

米や麦、果実を発酵させて造ったお酒。糖質が多い。

例. 日本酒、ビール、ワイン、紹興酒

〇蒸留酒

醸造酒を加熱・蒸留して作ったお酒。糖質ゼロ。

例. 焼酎、ウイスキー、ブランデー、ウォッカ、ラム、ジン

〇混成酒

醸造酒や蒸留酒に香料や糖分、果実を加えて造ったお酒。糖質が多い。

例. リキュール、梅酒などの果実酒

中性脂肪は糖質の取り過ぎで増えることがあります。

つまり、中性脂肪を増やさないという観点では糖質が少ないお酒がいいといえます。

アルコールで中性脂肪が増えるメカニズム

では、アルコール摂取によって中性脂肪が増えるメカニズムについて解説します。

アルコールは胃と小腸で吸収され、血液に入り全身に到達します。そして、摂取したアルコールのほとんどは肝臓で分解されます。

しかし、大量にアルコールを摂取すると、アルコールを分解するときに肝臓で中性脂肪の合成が促進されます。その結果、中性脂肪が過多状態になります。

「中性脂肪の合成が促進される」というのは、アルコール自体が中性脂肪になるというわけではなく、肝臓がアルコールを優先して分解するので、一緒に食べたものが消費されずに脂肪になるというわけです。

もちろん、飲み過ぎるとアルコール単体でも中性脂肪は増えますが、かなりの量になります。

健康診断・血液検査前日のアルコールは中性脂肪に影響する?

「来週は健診だからお酒を控えます」

「やばい、明日健診なのにお酒を飲んじゃった」

よく聞きますが、実際に検査前日のアルコール(飲酒)は中性脂肪の数値にどのように影響するのでしょうか。

アルコールが影響する数値

以下は、アルコールが影響する血液検査項目と基準値、高値のときに疑われる疾患です。

項目

基準値

高値で疑われる病気

TG
〈ティージー〉
中性脂肪

30~149mg/dL

閉塞性黄疸、脂肪肝、高脂血症、糖尿病、甲状腺機能低下症、ネフローゼ症候群、肥満など

AST (GOT)
〈エーエスティー〉

7~38 IU/L

急性肝炎、劇症肝炎、慢性肝炎、アルコール性肝炎、脂肪肝、肝硬変、肝がんなど

ALT (GPT)
〈エーエルティ―〉

4~44 IU/L

急性肝炎、劇症肝炎、慢性肝炎、アルコール性肝炎、脂肪肝、肝硬変、肝がんなど

γ-GTP
〈ガンマジーピーティー〉

男性:80 IU/L以下 
女性:30 IU/L以下

急性肝炎、慢性肝炎、肝硬変、肝がん、アルコール性肝障害、非アルコール性脂肪性肝炎、薬剤性肝障害、胆道系疾患など

(引用元 金井正光 編: 臨床検査法提要改訂第32版, 東京, 金原出版, 2005)

これらの項目のなかでもお酒の量と密接に関わるのがγ-GTP〈ガンマジーピーティー〉です。γ-GTPとは、肝機能の状態を示す指標です。

γ-GTPの値は摂取するお酒が増えるにつれて高くなり、断酒すると数値が減少します。その数値は約2週間で半減することが知られています。

直前に飲酒したからといっても中性脂肪の値には直接影響しない

前日のアルコールが強く影響するのはγ-GTPであり、中性脂肪の数値(TG)に影響することはほとんどありません。

とはいえ、健康診断前に飲んでもいいというわけではありません。前日に飲酒をすると血中のアルコール濃度が高くなるので、尿酸値や血糖に悪い影響を与えるからです。

中性脂肪は直前の対策でどうこうなるものではなく、普段から節制することが大事なのです。

中性脂肪は基準数値より高くても、低くてもダメ

中性脂肪(TG)の基準値は30~149mg/dLです。

ただし、高くても自覚症状を感じることがないという特徴もあります。

中性脂肪は内臓周囲にある腸間膜や大網、腹膜につきやすい特徴もあります

内臓脂肪が増加すると、「メタボリックシンドローム」につながるおそれがあります。

“メタボリックシンドロームとは、内臓肥満に高血圧・高血糖・脂質代謝異常が組み合わさることにより、心臓病や脳卒中などになりやすい病態を指します。”

引用:厚生労働省「メタボリックシンドローム(メタボ)とは?

 

中性脂肪の危険な高値

中性脂肪が高値(TG:150mg/dL以上)の場合、「脂質異常症」「糖尿病」「ネフローゼ症候群」「膵炎」「甲状腺機能低下症」などを患っている可能性があります。

もちろん、アルコールだけでなく普段の食事、ストレスや喫煙も中性脂肪の数値に影響を与えます。

中性脂肪値の危険な低値

中性脂肪値が基準値以下の場合、エネルギー不足で疲れやすくなる特徴があります。

中性脂肪は身体の体温調節に関係しているため、低体温や末端が冷えるなどの症状が出る方もいます。

また、中性脂肪によって全身に供給される脂溶性ビタミンが不足してしまいます。これにより免疫力の低下や、抜け毛や肌荒れなどの実感を伴うこともあるでしょう。

中性脂肪が低い場合、以下の可能性が考えられます。

・過度な運動

・食事制限

・病気(肝機能障害、甲状腺機能亢進症、etc)

中性脂肪とは高すぎても低すぎてもいけない数字だと忘れないようにしましょう。

アルコールが好きだけど中性脂肪を減らしたい方の対策法

「アルコールを控えないといけないのは分かった。でも完全に禁酒するのはさみしい」

「付き合いもあるから全く飲まないわけにはいかない」

そんな方に向けて、お酒との上手な付き合い方について解説します。

中性脂肪に影響しにくいお酒

お酒はできるだけ糖分の少ないものを選びましょう。

前述したように、醸造酒を蒸留して作ったお酒=蒸留酒は糖質がゼロです。

例として、焼酎、ウイスキー、ブランデー、ウォッカ、ラム、ジンなどが挙げられます。

他にも蒸留酒ではないですが、赤ワインも糖質が少ないことで知られています。

糖質が少ないだけでなく、赤ワインなどに含まれるポリフェノールはコレステロールの酸化、中性脂肪の生成を抑える効果があるとも言われています。

アルコールは適量とは

アルコールといっても蒸留酒だけではありませんし、できるなら好きなお酒を飲みたいですよね。

アルコールが中性脂肪に影響するとはいえ、過剰な量でなければ大きな問題にはなりません。

どんなお酒を飲むにせよ、適量を守るようにしましょう。

厚生労働省は「健康日本21」で1日の平均摂取量を純アルコールで20gと定めています。

お酒の種類

アルコール度数

純アルコール量

ビール
(中瓶1本500ml)

5%

20g

清酒
(1合180ml)

15%

22g

ウイスキー・ブランデー
(ダブル60ml)

43%

20g

焼酎(35度)
(1/2合90ml)

35%

25g

ワイン
(2杯240ml)

12%

24g

※参考:厚生労働省「健康日本21(アルコール)

この平均摂取量「純アルコールで20g」を適量として、それよりも多量のお酒を飲むことは控えましょう。

中性脂肪を減らす食事や生活スタイル

アルコールと切っても切り離せないのが食事です。お酒が好きといっても毎日、毎食飲むわけではないでしょうから、アルコールよりも食事を改善することが中性脂肪を減らすには効果的です。

中性脂肪を下げる食事習慣

すべての食事に共通して、心掛けたいのは次の3つです。

・よく噛んでゆっくり食べる

・食物繊維を多く摂る

・炭水化物は最後に食べる

よく噛むこと・ゆっくり食べることで満腹中枢が刺激され、食べ過ぎてしまうことを防ぎます。

食物繊維は中性脂肪の吸収を妨げるため、食事による外因性の中性脂肪上昇を防ぎます。

そして最後に炭水化物を食べることで、炭水化物(≒糖質)の摂りすぎを防ぎます。

時間があるときは意識してみてください。

また、追加で意識したいのが次の2つです。

・魚介類をできるだけ食べる

・植物性のたんぱく質も意識する

魚介類に含まれるDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)などの良質な油は、血液をサラサラにして動脈硬化を防ぐとともに、中性脂肪を下げる作用もあります。

大豆類に多く含まれる植物性のたんぱく質も中性脂肪やコレステロールを下げる作用があります。ランチでかつ丼やラーメンを選ぶときに、交互に焼き魚定食や煮魚定食を選ぶなどして無理なく続けられるとよいでしょう。

また、ギャバ茶・杜仲茶など、コンビニエンスストアで売られている特定保健用食品(トクホ)のお茶にも、中性脂肪を下げる働きがあります。

飲み物を選ぶときは「中性脂肪を下げる」「特定保健用食品(トクホ)」と表示されているものを選ぶのもいいでしょう。

中性脂肪を減らす運動習慣

食事だけでなく、運動も中性脂肪を減らすのには効果的です。

理想は有酸素運動と無酸素運動の両方に取り組むことです。

エネルギー消費自体は有酸素運動の方が激しいですが、無酸素運動(筋トレ)によって筋肉量が増えると基礎代謝が増えます。日常生活はもちろん、また有酸素運動をするときの消費エネルギーも増えます。

運動の方法など詳しく知りたい方は「中性脂肪を減らす方法は「運動」が効果的~中性脂肪対策vol.1~」をご覧ください。

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