【医師監修】睡眠負債とは?〜セルフチェック診断から解消するための食事戦略まで〜

「睡眠負債」という言葉は聞いたことがあるかもしれませんが、実際にどんな状態を指すのか、きちんと理解している方は意外と少ないのではないでしょうか。
端的に言うと、必要な睡眠が取れておらず、その不足分が積み重ねった状態です。しかし、単に「寝不足だから寝れば解消できる」という単純なものではありません。睡眠負債は、日々の生活リズムや体内時計の乱れ、ストレスなど複数の要因が絡み合っているため、そう簡単に解消できるものではないのです。
今回は睡眠負債をテーマに、その概要からセルフチェックリスト、解消法について解説します。食事からの視点でのアプローチも紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
この記事の監修者

高島 雅之
たかしま耳鼻咽喉科院長
日本耳鼻咽喉科学会専門医、日本睡眠学会専門医、日本禁煙学会認定指導医。 『病気の状態や経過について可能な範囲で分かりやすく説明する』ことをモットーにたかしま耳鼻咽喉科で院長を務めている。
本記事の医師監修に関して、学術部分のみの監修となり、医師が商品を推奨しているわけではございません。
睡眠負債とは
まずは睡眠負債の意味と基本的な仕組みについて解説します。
無自覚かつ慢性的な睡眠不足状態
睡眠負債とは、慢性的な睡眠不足が積み重なった状態のことです。その人が本来必要な睡眠時間と実際の睡眠時間の差が蓄積したものとも言い換えられます。
たとえば、必要な睡眠時間が7.5時間なのに7時間しか眠れなければ、その日だけで30分の「負債」が発生します。わずかな不足でも数日続けば、合計では大きな差となります。
また、睡眠負債は本人に自覚がないことが多いというのが厄介なポイントです。睡眠不足でも「慣れたら大丈夫」と考えがちですが、実際には集中力や判断力は確実に低下しています。
このように、知らず知らずのうちに日々のパフォーマンスが低下することが睡眠負債の最も恐ろしいところといえるでしょう。
必要な睡眠時間を知ることが第一
では、人間にとって本来必要な睡眠時間はどれくらいなのでしょうか。
一般的に、成人は1日7時間以上の睡眠が推奨されています。ただし、必要な睡眠時間には個人差があり、体質や年齢、運動量、ストレスなどによって変わります。
自分に合った睡眠時間を知るには、いくつかの方法があります。たとえば、目覚ましを使わず自然に目が覚めるまで眠ってみる、あるいは起床時刻を一定に保ち、日中の眠気の有無を観察するなどです。
まずは自分の「ベストな睡眠時間」を知ることが、睡眠負債を解消するための第一歩といえます。
ベストな睡眠時間を知る方法については「あなたの理想の睡眠時間は何時間?適切時間を見つけるための実践ガイド」で詳しく解説しています。
睡眠負債の計算方法
自分にどのくらい睡眠負債があるのかを把握するには、「一週間の睡眠負債」を計算してみることをおすすめします。
計算式は以下の通りです。
(必要睡眠時間 × 7) −(1週間の実際の睡眠時間の合計)= 週間睡眠負債
たとえば、必要な睡眠時間が1日7.5時間の人が、実際には平均6.5時間しか眠れていない場合、(7.5時間 × 7日) −(6.5時間 × 7日)= 7時間の睡眠負債 があるということです。つまり、1週間でまるまる一晩分の睡眠が足りていない計算になります。
まずは1〜2週間、スマホの睡眠アプリや睡眠日誌を付けるなどして、就寝・起床時間、夜間覚醒の回数、昼寝の時間、カフェイン摂取量、夕食時刻などを記録しましょう。
睡眠不足だけが睡眠負債の原因ではない
睡眠負債というと、睡眠時間の不足が原因と考えがちですが、実は“睡眠の質”も大きく関係しています。
たとえ十分な時間を確保していても、眠りの途中で何度も目が覚めたり、朝起きても疲れが取れなかったりする場合、体や脳はしっかり休めていません。つまり、「どれくらい眠ったか」だけでなく、「どれほど深く眠れたか」も睡眠負債を防ぐうえで欠かせない要素なのです。
睡眠の質については「睡眠の質とは何か? 睡眠チェックシート&改善方法」で詳しく解説しています。
睡眠負債がもたらす影響
睡眠負債が蓄積すると、脳や自律神経、ホルモンバランスなど多方面に影響が及びます。
日常生活の中で表れる主な影響についてみていきましょう。
集中力・記憶力が低下する
睡眠負債が蓄積すると、脳の働きが鈍り、集中力や記憶力の低下が顕著になります。注意力にムラが生じ、反応速度が遅くなったり、うっかりミスが増えたりするのは典型的なサインです。
また、思考力や意思決定の効率も下がるため、同じ成果を出すのにこれまでより多くの時間と労力が必要になります。ある研究では、1日6時間以下の睡眠が続くと、脳の認知機能は徹夜した状態に近いレベルまで低下することが報告されています。
メンタルが安定しなくなる
睡眠負債がたまると、感情をコントロールする力が弱まり、気分の浮き沈みが激しくなる傾向があります。イライラしやすくなったり、ちょっとしたことで落ち込みやすくなったりと、心のバランスが崩れやすくなるのです。
また慢性的な睡眠不足は、うつ病を発症するリスクを高めることも知られています。
生活習慣病リスクが上がる
睡眠負債がたまると、体内のホルモンバランスや代謝のリズムが乱れ、生活習慣病のリスクが高まります。
一例として、食欲を抑えるホルモン(レプチン)の分泌が減り、逆に食欲を高めるホルモン(グレリン)が増えることで、間食や過食が増えて肥満になりやすくなります。慢性的な睡眠不足は、インスリンの働きを鈍らせ、血糖値のコントロールを悪化させるため、糖尿病のリスクを上げる要因にもなります。
また、自律神経のバランスが崩れることで血圧が上昇しやすくなると、心血管系への負担も大きくなるため、動脈硬化や心筋梗塞、脳卒中などの重大な疾患につながる可能性もあります。
睡眠負債度チェックリスト
先述したように、睡眠負債の厄介な点は自覚しにくいことです。最近「寝ても疲れが取れない」「集中できない」と感じる方は、睡眠負債が原因かもしれません。
ここでは、日常の状態から睡眠負債の可能性を確認できるチェックリストを用意しました。ご自身の今の睡眠状態を評価する参考にしてください。

睡眠負債の解消は生活習慣の見直しから
睡眠負債は、単に「たくさん眠れば解消できる」というものではありません。1日2日だけ十分な睡眠をとれたとしても、乱れた生活リズムや不規則な習慣がそのままでは、再び睡眠不足を招いてしまいます。
大切なのは、日々の生活習慣を見直し、眠りやすいリズムを整えることです。ここでは、今日から実践できる睡眠負債の解消法を紹介します。
起床時間をそろえる
睡眠負債を解消するためには、生活リズムを整えることが何よりも重要です。その中でも最も優先すべきは、起床時間を毎日そろえることです。
平日と休日で起床時間が大きく異なる方は多いですが、休日でも平日と±30分以内を目安に起きる習慣をつくりましょう。起きる時間が日によってばらつくと、体内時計が乱れやすくなり、眠気や倦怠感が抜けにくくなります。
また、起きたら体内時計をリセットするために、まずカーテンを開け、朝の光を浴びましょう。可能であれば、軽い散歩やストレッチを行うと体温が上がり、気分もすっきり整いやすくなります。
就寝前のクールダウンを設計する
起床時間とは異なり、就寝時間を毎日同じにするのは難しいものです。しかし、より良い睡眠をとるためには、寝る前の過ごし方が非常に重要です。この時間を「クールダウンタイム」として、毎晩ほぼ同じ順番・同じ時間で行えるルーティンをつくりましょう。
例えば、以下のような過ごし方がおすすめです。
- 就寝90分前に入浴する
ぬるめのお湯に浸かり、一度上がった体温が下がるタイミングで自然な眠気を誘う - 就寝1時間前からスマホやPCの操作を控える
ブルーライトや情報刺激は脳を覚醒させ、入眠を妨げるため - 就寝30分前はストレッチや読書などでリラックスする
軽く体をほぐしたり、静かな時間を過ごしたりして心身を落ち着かせる
このような習慣を続けることで、自然と眠りに入りやすいリズムが整っていきます。
昼寝(パワーナップ)を活用する
昼食後に15〜20分ほどの短い仮眠(パワーナップ)をとることで、脳のパフォーマンスは大きく回復します。昼寝は長く寝すぎると夜の睡眠に悪影響が出るため、30分以内を目安にしましょう。
また、遅い時間に昼寝をすると夜の入眠が遅れやすくなるため、遅くとも16時前には終えるのがおすすめです。
なお、体勢は完全に横になるよりも、椅子を軽くリクライニングさせ、アイマスクや耳栓などで周囲の刺激を遮断する程度が理想的です。寝つけない場合でも、目を閉じて静かに過ごすだけで脳は休息状態になるため、十分なリフレッシュ効果が得られます。
小さな習慣の積み重ねが、良質な睡眠と快適な毎日をつくります。まずはできることから始めて、無理なく自分のリズムを整えていきましょう。
睡眠負債を解消するための食事
睡眠負債を解消する方法として、生活リズムの改善や就寝環境の整備がよく挙げられますが、実は食事も眠りの質を左右する大切な要素です。
食べる内容やタイミングを少し意識するだけで、入眠しやすさや睡眠の深さが変わることがあります。ここでは、眠りを整えるための食事のポイントを紹介します。
質の高い睡眠に導く栄養素
良質な睡眠をとるためには、体のリズムを整えるホルモンや神経伝達物質の働きが欠かせません。それらの働きを支える栄養素をしっかり摂ることで、心身がリラックスし、眠りの質を高めることができます。
代表的な栄養素としては以下のようなものが挙げられます。
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栄養素 |
効果 |
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トリプトファン |
眠気を促す効果があるメラトニンのもとになる |
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GABA |
副交感神経を優位にすることで睡眠の質向上に役立つ |
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DHA・EPA |
脳の働きを整え、睡眠の質を改善する |
これらの栄養素が豊富な食品については以下の記事で紹介しています。
- トリプトファンが豊富な食べ物と一緒に摂りたい栄養素〜おすすめレシピ4選も紹介〜
- GABA(ギャバ)が豊富な食品&一緒に摂りたい食品~おすすめレシピ3選~
- DHA・EPAを効率的に摂取できる食べ物&レシピ〜魚以外で摂る方法も紹介〜
食べるタイミング
睡眠の質を高めるためには、食べる時間帯も大事です。「何を食べるか」だけでなく、「いつ食べるか」によっても体内時計やホルモン分泌のリズムが変わり、眠りの深さに影響します。
朝食、昼食、夕食のそれぞれのポイントは以下の通りです。
- 朝食は起床後1〜2時間以内にとる
朝食をとることで体内時計がリセットされ、1日のリズムが整いやすくなる - 昼食は12〜13時頃にとる
昼食が遅くなると血糖値が乱れ、午後の眠気や集中力低下につながる - 夕食は就寝3〜4時間前までに終える
就寝直前の食事は胃腸の消化活動を活発にし、睡眠を浅くする原因になる
すべて基本的なことですが、これらをきちんと守るようにしましょう。また、夜食は取るにしても糖分や脂質の多いものは避け、消化に負担をかけないようにしましょう。
おすすめメニュー
最後におすすめメニューを1品紹介します。
かぼちゃとトマトのチーズ焼き

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材料(1人分) ・かぼちゃ・・・8分の1個 ・トマト・・・1個 ・ピザ用チーズ・・・適量 ・オリーブオイル・・・適量 ・塩コショウ・・・少々 |
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作り方 ① かぼちゃ、トマトを薄切りにカットする ② かぼちゃを耐熱容器に入れて、水を少しかけて500Wで2分30秒加熱する ③ かぼちゃにトマトとピザ用チーズを乗せて、塩コショウをかける ④ ③をトースターで5分加熱する ⑤ お皿に盛り付け、仕上げにオリーブオイルを適量かけて完成 |
GABAが豊富なかぼちゃとトマトと、トリプトファンが豊富なチーズを合わせた一品。自然な甘みと酸味、チーズのコクが調和し、夕食にも軽い夜食にもぴったりです。
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